草野球論; 第12回「イチロー選手の打撃」

 

草野球論  ― 名将の伝え ―

右も左も判らぬまま飛び込んだ 草野球のフィールド。一口に"草野球"といっても奥が深いものです。考え方ひとつで、価値観も一変し新しい感動と出会えます。入門者の方々、バリバリの硬式野球部OBの方々も共存する、1つの素晴らしい世界が草野球です。球界を引っ張る 名将に学びましょう。活動意義、戦術、野球観・・・名将の伝えを胸に 「それぞれの充実」を目指し、輝きましょう。伝えに学びながら、ご自身の新しい価値観を見出してください。

 


松坂大輔投手のデビュー戦155キロの試合を球審としてジャッジ。
日本人初のメジャーリーグ審判員を目指す平林審判員の野球論とは?

 

第12回「イチロー選手の打撃」
  / 元パ・リーグ(現:メジャーリーグ3A) 平林 岳 審判員

ストロングリーグの皆さんはじめまして!今回、高橋会長より「白球論」執筆依頼を頂きました野球の審判をしています平林 岳です。まず簡単に自己紹介します。昨年までの9年間、パシフィックリーグでお世話になっていました。西武、松坂投手の公式デビュー戦は、私が球審を務めました。片岡選手(現阪神)との勝負で見せた、155キロストレートの球筋は、いまでもはっきり覚えています。パリーグに入る前は、アメリカマイナーリーグ(ルーキー、ショートA)で審判をしました。そして現在、アメリカメジャーリーグ審判を目指し、再びアメリカ球界復帰を試みている最中です。

今回、野球を愛するストロングリーグの皆さんに、審判の側から見たイチロー選手のバッティングについて少しお話したいと思います。この話には、イチロー選手の素晴らしさやアメリカ野球と日本野球の価値観の違いなどが凝縮されています。皆さんの今後の野球を楽しんでプレイしてもらう事にお役に立てばと思います。

我々、審判サイドの人間にとってイチロー選手は、とてもありがたい選手です。それは、審判に対して(判定に対して)文句をほとんど言わないプレイヤーです。これは、人間性も、勿論ですが、やはり自分のバッティングに自信があり、審判の判定にあまり影響を受けないということです。仮に自分にとって不利な判定をされたとしても、それに影響されないだけの精神力と打撃技術があるということです。それと、もうひとつ我々にとってありがたいことがあります。それは、彼が2ストライクと追い込まれた後に、審判として一番良く見て判定しなければならない三振目の投球判定をしなくてよかったということです。審判が判定する仕事というのは、良い場面になればなるほど、とても大変です。(勿論、逆に見せ場でやりがいもありますが
)例えば、9回の裏、同点で2アウト満塁、カウント3ボール、2ストライクからの投球判定はとても審判にとってしんどい場面だというのは、おわかりだと思います。この様な場面で、イチロー選手は、ストライクかボールかが際どいような投球には、必ずといって良いほど、スイングをしてくれます。つまり、我々は際どい、どちらのチームにもとても大きな影響力のある1球を判定する必要がなくなり、楽ができるわけです。

この事で何が言いたいかというと、イチロー選手の持っているストライクゾーンが他の選手に比べて、とても大きいということです。彼が打って、ヒットやホームランを打てる範囲が広いのです。通常の打者であれば、打とうか打たないかを迷うような際どいコースや高さに来る投球を迷いなく打ち返せて、ヒットにできる技術を持っているのです。野球規則で定められているストライクゾーンより、ボール1個から1個半ぐらいは、広いストライクゾーンをイチロー選手は、持っていると思います。

日本では、伝統的に、ボール球は打つなと指導されます。彼は、その常識を見事に破り、アメリカでも大活躍しています。私の持論ですが、ストライクゾーンに来る投球だけを待って打っても、打率3割を打つのがやっとだと思います。イチロー選手のように3割5分以上4割を目指すには、打てる範囲を広げて、打てる範囲は、打っていくという方法が常識となる日が来ます。ストロングの皆さんもどんどん積極的に打っていくという、ベースボール本来のスタイルで、野球をもっと楽しんで欲しいと思います。そして、審判に楽をさせてあげましょう!

元パ・リーグ(現:メジャーリーグ3A審判員) 平林 岳

氏 名

平林 岳

略 歴柏高校〜國學院大學 大学卒業後セ、パ両リーグの審判員試験を受験するも、視力不足などで不採用に。1992年渡米。ジム・エバンス審判学校でトップ10に入り、日本人初のアメリカプロ野球審判員に。1992年アリゾナリーグ(1A)、93年ノースウェストリーグ(1A)と順調に昇格。93年10月パ・リーグからスカウトされ、02年までパ・リーグ審判員を務める。03年1月ジム・エバンス審判学校へ再度入学。
経歴
1992
ジムエバンス審判学校に入り、日本人初のアメリカ プロ野球審判員に。 アリゾナリーグ(Rokie)、アリゾナ教育リーグ
1993
ノースウェストリーグ(Short A)
1994
日本・パシフィックリーグ審判員(〜2002年)
1997
アリゾナ・フォールリーグ参加
2003
ジムエバンス審判学校ヘ再度入学。 再びアメリカプロ野球審判員資格を取得。 6月からのルーキーリーグより米国球界ヘ復帰予定。

 


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